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             【SS】ATフィールド
             第1話「傷つけあう二人」
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 二人はLCLの海の波打ち際でシンジはアスカの首を絞める。
 アスカの首に回した手に力を込める。
 アスカはシンジの頬を優しく撫でる。
 シンジはアスカに馬乗りのままうずくまって泣く。
 そして、

「気持ち悪い」

 全てが終わった。

 二人はLCLの海から帰ってきた。
シンジはアスカに馬乗りになりうずくまって泣いている。アスカはしばらくシンジ
の事を睨みつけていた。睨み続けていくうちに心のそこから黒い感情がふつふつと
沸き上がっていくのを感じていた。

「いつまで乗っているのよ!気持ち悪い!」

アスカは黒い感情に任せ声を荒立てる。しかしシンジは何も答えてこない。

「気持ち悪い!早くどきなさい!」

アスカは左手で強引にシンジを押しのける。

「あんたアタシのこと何だと思っているのよ」
「・・・」
「あんた、アタシが病室で寝ている時なにしてたのよ。
 何も知らないとでも思っているの!アタシのことオカズにしていたくせに!
 他人が怖いんでしょ。自分が嫌なんでしょ!
 何も言わないお人形しか相手にできないくせに!
 だから、アタシが動けなくなって、病室で寝ているときオカズにしたんでしょ!
 でも、誰があんたなんかのお人形なんかになるもんですか!
 アタシのこと、何も判ってくれなかったくせに!」
「判るわけ・・・判るわけないだろ!
 何も言わない、何も話してくれないくせに判らないじゃないか!」
「だからあんたは馬鹿なのよ!自分からは何もしないくせに、何も話さないくせに
 それでただ与えられるのを待っているだけじゃないの」
「そんなこと言ったらアスカだって同じじゃないか!
 いつも壁を作って、拒絶して、そのくせ求めてばかり。
 誰が全部アスカの物になるもんか!」
「何よ!その壁を越えて勝手にアタシの中に住みついたくせに!
 あんたあたしを傷つけることしか出来ないくせに」
 あんたなんか大嫌いなんだから!」

 二人の言い争いは一晩中続く。
お互いの言葉が鋭いナイフとなり、お互いの心をずたずたに切り裂いていく。
それでも心から湧き出てくる黒い感情のおもむくままにお互いにお互いを拒絶する
言葉を吐き続けずにはいられなかった。

「何が『僕に優しくしてよ』だっ!。甘ったれてんじゃないわよ!
 自分の事しか考えてないくせに!。何も判らないくせに!」
「じゃアスカは僕のこと判るとでもいうのっ!」
「分かるわけないじゃん、そんなこと。
 ただ言えるのはあたしのことを傷つける存在でしかないってことよっ!」

 東の空が少しづつ明るくなっていき、赤い帯の彼方の星々が消えかかる頃には、
疲れてきたのか言葉が少なくなっていく。

 太陽が完全にその姿を表す頃にはもはや言葉は出ない。お互い睨みあったままの
こう着状態となっていた。

 さらに太陽が高い位置についた頃ようやく二人は言葉を発した。

「こんなことをしてても時間の無駄だから、僕はもうここから他の場所に行くよ。
 もう、アスカとは会うことは無いかも・・・」
「そうね、あんたなんかと睨み合っててもしかたないわね。
 いいこと、もうあんたと会うことなんてこと金輪際ないんだからね!」

 そして二人は反対方向に向かって歩いていった。


第2話「アスカ」へ続く

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